各種法令・倫理指針等
各種法令・倫理指針等
関連する法令や指針等
研究を実施する上で重要な資料を集めました。PDFファイルのダウンロードができるようになっています。
人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針
【令和3年3月23日制定】
これまで、ヒトゲノム・遺伝子解析研究については、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」により、また、人を対象とする医学系研究については、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」により、その適正な実施が図られてきましたが、両指針の見直しが行われ、医学系指針の規定内容を基本として両指針を統合し、令和3年3月23日付けで「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(令和3年文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示第1号)が制定されました。
【令和4年3月10日 一部改正】
個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律(令和2年法律第 44 号)及びデジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第 37 号)の一部の施行に伴い、これらの法律の規定による改正後の個人情報の保護に関する法律(平成 15 年法律第 57 号「改正後個情法」)の規定を踏まえ、指針の見直しが行われました。
【令和5年3月27日 一部改正】
デジタル社会形成整備法に基づき令和5年4月1日から施行される改正後の個人情報の保護に関する法律(平成 15 年法律第 57 号)の規定等を踏まえ、令和4年6月より、文部科学省、厚生労働省及び経済産業省の3省による「生命科学・医学系研究等における個人情報の取扱い等に関する合同会議」において、指針の見直しについて検討が行われ、令和4年 11 月から 12 月にかけて実施したパブリック・コメントにおける意見や、その後の同合同会議における議論も踏まえ、指針の見直しが行われました。主な改正点については、公布通知をご参照ください。
人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(令和5年3月27日 一部改正)
本指針の主な内容
(1)構成の見直し
生命・医学系指針では、「第1章」において、総論的な概念や定義等を、「第2章」で研究者等が研究を実施する上で遵守すべき責務や考え方を整理するとともに、「第3章」から「第7章」で生命科学・医学系研究に携わる全ての関係者が行うべき具体的な手続きを研究が実施される流れに沿って整理されました。その後、「第8章」に倫理審査委員会に関する項目について、「第9章」に特に留意すべき事項である個人情報等及び匿名加工情報の取扱い等に関する項目について、研究実施の手続とは分けて規定されました。
(2)用語の定義の見直し
研究計画書に基づいて研究が実施される研究機関以外であって、当該研究のために研究対象者から新たに試料・情報を取得し(侵襲(軽微な侵襲を除く)を伴う試料の取得は除く。)研究機関に提供のみを行う機関を、「研究協力機関」として定義、それに伴い、新たに試料・情報を取得し、研究機関に提供のみを行う者を除くよう「研究者等」の定義が変更されました。さらに、一の研究計画書に基づき複数の研究機関において実施される研究を「多機関共同研究」として新たに定義し、手続の効率化を図るため、原則として、一の倫理審査委員会による一括した審査が求められることとなりました。加えて、多機関共同研究を実施する場合に、複数の研究機関の研究責任者を代表する者として、「研究代表者」の定義が新設されました。
さらに、ゲノム指針に規定されている「遺伝カウンセリング」の定義が一部改訂した上で規定されました。
(3)インフォームド・コンセント等の手続の見直し
研究者等が研究対象者等からインフォームド・コンセントを受ける際に、電磁的方法(デジタルデバイスやオンライン等)を用いることが可能である旨、その際に留意すべき事項についての規定が新設されました。
(4)研究により得られた結果等の取扱いに係る規定の新設
ゲノム指針「第3の8 遺伝情報の開示」「第3の9 遺伝カウンセリング」の規定を改訂し、新設の項目として、研究者等は研究により得られる結果等の特性を踏まえ、研究対象者への説明方針を定め、インフォームド・コンセントを受ける際はその方針を説明、理解を得なければならないことが規定されました。
(5)倫理審査委員会への報告に係る規定の新設
研究計画書の軽微な変更のうち、委員会が事前に確認のみで良いと認めたものについては、倫理審査委員会への報告事項として取り扱うことができることとする規定が新設されました。
(6)研究計画書の倫理審査委員会への付議等の手続の実施主体の変更
研究計画書の倫理審査委員会への付議や重篤な有害事象が発生した場合の大臣への報告等、研究実施に伴う必要な手続の実施主体が、研究機関の長ではなく研究責任者となりました。これに伴い、研究機関の長の責務等が変更されました。
(7)経過措置
生命・医学系指針の施行の際現に廃止前の疫学研究に関する倫理指針、臨床研究に関する倫理指針、ゲノム指針又は医学系指針の規定により実施中の研究については、なお従前の例によることができる、とされています。
ヘルシンキ宣言
【2024年10月改訂】
フィンランド、ヘルシンキにおける第75回WMA総会で、11年ぶりに改訂されました。
主な改訂のポイント
1)被験者から「参加者」へ:これまでの「被験者」(human subject)の表記が「参加者」(participants)に変更
された(1)。参加する人の主体性や役割に注目した変更とされる。
2)緊急事態でも原則は大事:公衆衛生上の緊急事態においても,この宣言の諸原則は重要であり続けるとする記
載が加えられた(8)。コロナ禍で展開した一部の研究への懸念を受けた加筆とされる。
3)研究に伴う不平等への警戒:研究参加者は,一種のボランティアとしてリスクを引き受けることになる。誰が
参加し,害はどこまで許容されるのか。参加者も恩恵を得る手立てはないか。研究には,こうした害と恩恵の非
対称性を巡る課題が伴う。今回の改訂で,研究に絡む「構造的な不平等」(structural inequities)への対応を求め
る記載が加わった。研究者は,特定の人々に過度の負担がかからないよう,適切な負担配置と恩恵の再配分を考
えることが求められる(6)。
4)弱者の「保護」とは:参加者の保護は,より多くの配慮を要する人々(弱者)を対象とした研究の際に特に課
題となる(例:判断能力,立場の弱さなど)。今回の改訂では,「弱さ」にも多様な側面があり,固定的な基準
のみではなく,個人が属する集団や構造的な弱さにも注目すべきとされた(19)。研究者は,強引な組み入れの
害への懸念と,「保護」の名の下に研究から過度に遠ざける害の両面に注意が必要である。
5)研究に参加する側の視点を知る:参加者側の希望や価値観を計画立案や配慮に生かすため,研究者には参加者
やそのコミュニティの人々による「意味のある関与」の企画と実践が求められる(6)。
6)医学研究の情報・試料リソースの確保と管理:AI研究やバイオバンクなど,人に由来する情報や試料の蓄積を
生かした研究が増加している。本人意思の尊重に加え,個人再識別への警戒など,必要な配慮がより詳細に設定
された。また,倫理審査の役割明確化,同じく世界医師会による「台北宣言」(ヘルスデータベースとバイオバ
ンクについての倫理的考察に関する世界医師会の台北宣言,2016年)の遵守など,運営体制に関する記載も追記
された(32)。
7)未確立医療に関する要件の精緻化:従来の記載(専門家の助言や他に有効な手段がない場合に限るなど)に加
え,既存の臨床試験への影響回避など,要件が改めて整理された(37)。
このほか,チームや関連組織の主体的役割(2),倫理審査委員会の運営体制の充実(23),生態系・環境への
負荷軽減(11)に関する記載も増えた。
出典: 井上 悠輔:京都大学医学研究科・社会健康医学系専攻(医療倫理学)教授(2024.12.10 医学界新聞:第3568号より)